過去の名種牡馬(だいたい1890〜1950年代に生まれたもの)のうち、イギリスとアイルランドで産駒が50勝以上したものについては前回までの表に含まれているが、49勝以下のものはリストから漏れている。リストからこぼれ落ちた種牡馬のなかで、影響力の強いと思われるものを何頭かピックアップし、これから紹介してみたい。イギリスまたはアイルランドでまともに種つけを行ない、産駒が順調に走っていれば、まず間違いなく50勝という数字はクリアする。この条件を満たせなかった種牡馬というのは、そのほとんどがフランスやアメリカなどで繋養されていたものである。
 エイトサーティ Eight Thirty(1936年生)はアメリカ生まれのアメリカ育ちで、死ぬまで国外に出ることはなかった。血統的にもアメリカ色が強く、母の父ハイタイム High Time はドミノ Domino 3・3×2という異様な近親交配の産物である。自身はフライアーロック Friar Rock とマンノウォー Man o’War のニックスを持つ。どこからどう見ても速い。当然のことながら産駒にもスピードを伝え、スタミナ・インデックスは6.00と完全なスプリンターの数値を示している。イギリスとアイルランドに渡った産駒に大物はいなかったが、アメリカでは44頭のステークス・ウィナーを送り出し、代表産駒のボレロ Bolero はダート6f、7fの全米レコード(1分08秒1/5、1分21秒)を樹立した快速馬だった。Eight Thirty の血はブライアンズタイムなどにも含まれ、現代に及ぼす影響も決して小さくはない。

 ダーバー Durbar(1911年生)は英ダービー(芝12f)の勝ち馬。しかし、母系に流れるアメリカ血統の影響で、種牡馬としてはスピード豊かな産駒を送り出した。これは Orby によく似たパターンである。スタミナ・インデックスは6.64。Durbar はフランスの名種牡馬 Tourbillon(1928年生)の母の父になるなど、マルセル・ブサックが育てた牝系のなかにしばしば現れる。

 Tourbillon は仏ダービー(芝2400m)の勝ち馬で、種牡馬としては画期的な成功を収めた。その血は世界の生産界に強い影響を与えている。父系も発展し、シンボリルドルフやメジロマックイーンも Tourbillon のラインから生まれた。母系にアメリカ血統を含んでいるものの、スタミナ・インデックスは12.10だった。堂々たるステイヤーである。
 Tourbillon の父クサール Ksar(1918年生)は、凱旋門賞(芝2400m)を2連覇したほか、仏ダービー、カドラン賞(芝4000m)など15戦11勝、競走馬としての格では息子の Tourbillon よりも明らかに上だった。早死にした名種牡馬オムニウム Omnium を3×2で持つ大胆な配合で、ここから得た活力によって種牡馬としても大成功、フランスのリーディング・サイアーとなっている。スタミナ・インデックスは息子の Tourbillon よりも短く、10.79だった。その父ブリュルール Bruleur(1910年生)もやはりフランスで名種牡馬として活躍し、三度リーディング・サイアーに輝いている。こちらは12.63と本格的なステイヤー。

 Tourbillon の代表産駒のジェベル Djebel はイギリスで英2000ギニー(芝8f)を勝っている。といっても、母国フランスでは凱旋門賞を勝っており、単純なスピード馬だったわけではない。スタミナ・インデックスは11.35とかなり長めである(「10ハロン以上」の項を参照)。その初年度産駒のクラリオン Clarion(1944年生)は、2歳時にグラン・クリテリウム(芝1600m)を楽勝し、仏2歳チャンピオンに輝いた。父に比べると産駒の適正距離は短く、スタミナ・インデックスは9.19だった。名種牡馬リュティエ Luthier の2代父、アホヌーラ Ahonoora の3代父である。

 Djebel には及ばないものの、Tourbillon の優秀な後継馬だったゴヤ Goya(1934年生)は、凱旋門賞を2連覇した女傑コリーダ Corrida の半弟である。フランスのガネー賞(芝2100m)を2連覇したほか、イギリスのセント・ジェームズ・パレスS(芝8f)などを制している。種牡馬としては長距離向きで、スタミナ・インデックスは11.78。英オークス(芝12f)を勝ったアスメナ Asmena などを出している。
 Goya の母の父サルダナパル Sardanapale(1911年生)は、フランスで16戦全勝の成績を残したプレスティージュ Prestige の息子で、自身も仏ダービー、パリ大賞典(芝3000m)など大レースを総なめにした。引退後、「世界最強馬」という触れ込みで種牡馬入りしたが、当時の人々はそれを誇大広告とは受け取らなかったという。ちなみにロベルト Roberto の母ブラマレア Bramalea は Sardanapale 4×4である。スタミナ・インデックスは10.52。

 Sickle(1924年生)は Native Dancer の3代父。名馬 Hyperion の半兄にあたる。Pharos や Fairway と同じく“Phalaris×Chaucer”の組み合わせから生まれた。
 Pharos は Nearco の父として知られる。種牡馬生活の大半をフランスで送り、そこでファリス Pharis やファスネー Fastnet を出した。
 Pharis(1936年生) は現役時代、驚くべき強さでノアイユ賞(芝2200m)、仏ダービー(芝2400m)、パリ大賞典(芝3000m)と3戦全勝。負けを知らないまま引退した。種牡馬としても優秀な成績を残し、ナチス政権下のドイツに略奪された時期もあったが、戦後は無事フランスに戻り、リーディング・サイアーに輝いている。ガバドール、フィリュース、エイトラックスの父、パーソロンの母の父でもある。スタミナ・インデックスは11.59。Nearco に比べるとかなり長い。

 Fastnet(1933年生)はフェリオールの父、ワラビーの2代父。11.61というスタミナ・インデックスは Pharis とほとんど同じである。
 テディ Teddy(1913年生)はフランスの大生産者エドモン・ブランが生産した。第一次世界大戦の戦火を逃れるために4歳時はスペインで走り、仏ダービーの代わりとして行われたトロワ・アン賞やサン・セバスチャン大賞典などを快勝、3歳チャンピオンとなった。4歳時はフランスに戻って強豪ラファリナ La Farinaなどを破っている。種牡馬としても大成功、1923年に仏リーディング・サイアーに輝き、その血は世界中に広まっていった。スタミナ・インデックスは11.07。これはステイヤーの数値である。

 Teddy の後継種牡馬としてフランスで最も成功したのがアステリュー Asterus(1923年生)である。仏1000ギニー馬の半妹を母に持ち、その影響で自身もスピードに優れ、仏2000ギニー(芝1600m)を制した。大生産者マルセル・ブサックの牧場に繋養され、1934年には仏リーディング・サイアーに輝いている。スタミナ・インデックスは8.70。父よりも格段にスピードがあったことがわかる。

 しかし、その息子のジョック Jock(1936年生)は母系にイギリスのスタミナ血脈を入れたため、競走馬としても種牡馬としても長距離を得意とした。スタミナ・インデックスは12.33。ダラノーアやタマナーの2代父である。
 Teddy の血はアメリカにも大きな影響を与えた。フランスで生まれたサーギャラハッド Sir Gallahad(1920年生)は Asterus と同じく仏2000ギニーを勝ち、ほかにジャック・ル・マロワ賞(芝1600m)などを制したマイラーだった。引退後、ケンタッキーの名門クレイボーン・ファームに買われてアメリカへ渡り、三冠馬ギャラントフォックス Gallant Fox をはじめ多くの超一流馬を送り出した。1930、1933、1934、1940年の計4回米リーディング・サイアーに輝き、12年連続でブルードメア・サイアーのトップに君臨した。空前絶後の大記録といっていいだろう。全弟のブルドッグ Bull Dog も種牡馬として大成功し、兄と同じく後世に多大な影響を与えた。また、半弟の Bois Roussel は英ダービー(芝12f)に優勝し、英リーディング・サイアーに輝いている。Sir Gallahad のスタミナ・インデックスは9.06。父 Teddy に比べるとかなり速いが、イギリスに渡って活躍した馬のなかには、ドンカスターC(芝18f)を勝ったブラックデヴィル Black Devil(ヴィミーの母の父)、プリンス・オブ・ウェールズS(芝13f)を勝ったサーアンドリュー Sir Andrew などのように、長距離でがんばるものもいた。これらは母系からスタミナを補給している。

 クレイボーン・ファームは世界から多数の名種牡馬を買い集めたが、そのなかには英ダービー馬ブレニム Blenheim(1927年生)も含まれていた。Blenheim はイギリス供用時代に英ダービー馬マームード Mahmoud、伊ダービー馬 Donatello、Nasrullah の母マムタズビガム Mumtaz Begum などを送りだし、アメリカでは三冠馬ワーラウェイ Whirlaway、ケンタッキー・ダービー馬ジェットパイロット Jet Pilot などの父となった。スタミナ・インデックスは10.21。

 息子の Mahmoud(1933年生)は英ダービーをレコード勝ちした芦毛の名馬。イギリスで供用されていた当時は愛1000ギニー(芝8f)と愛オークス(芝12f)を勝ったマジデー Majideh を出した程度だったが、C.V.ホイットニーに買われてアメリカへ渡ると大成功し、1946年にはリーディング・サイアーとなっている。スピードを伝える Lady Josephine のファミリーに属していたため、スタミナ・インデックスも8.42だった。これは同じファミリーの Nasrullah や Tudor Minstrel よりも数値が小さい。Mahmoud は母の父として非常に優秀で、アルマームード Almahmoud、グレイフライト Grey Flight、ブドワール Boudoir などの繁殖牝馬は、その後の生産界に強い影響を与えた。

 Bahram(1932年生)は Blenheim と同じく Blandford の息子。生涯に9戦して一度も負けることなく、1886年の Ormonde 以来史上2頭目の無敗の英三冠馬となった。初年度産駒から英セント・レジャー(芝14f127yds)と愛ダービー(芝12f)を勝ったターカン Turkhan、愛オークス(芝12f)を勝ったクイーンオブシラズ Queen of Shiraz を出したが、これらが3歳を迎えた1940年、アメリカ人の生産者グループが大枚を投じて購買し、のちに Native Dancer の生産者となるA.G.ヴァンダービルトのサガモア・ファームに移された。現代のサンデーサイレンスやラムタラ級の大トレードである。しかし、アメリカではほとんど成功せず、1946年にアルゼンチンに売却された。スプリンターのフライアーマーカス Friar Marcus が母の父だったことが影響したのか、スタミナ・インデックスは8.69とスピードに傾いている。前出の Turkhan や Queen of Shiraz はステイヤーだったが、最良の後継種牡馬となったビッグゲーム Big Game は英2000ギニー馬である。

 フランスにおける Blandford 系はブラントーム Brantome(1931年生)を通じて発展した。Brantome は凱旋門賞(芝2400m)、カドラン賞(芝4000m)、仏2000ギニー(芝1600m)、グラン・クリテリウム(芝1600m)など大レースを勝ちまくり、種牡馬としてもまずまずの成功を収めた。代表産駒のヴューマノワール Vieux Manoir(1947年生)はパリ大賞典(芝3000m)の勝ち馬で、こちらも種牡馬として成功し、1958年には仏リーディング・サイアーに輝いている。スタミナ・インデックスは Brantome が11.67、Vieux Manoir が11.40。どちらも生粋のステイヤーである。

 イギリス生まれの Prince Rose(1928年生)は、その後ベルギーへ渡って競走馬となった。ベルギー国内では無敵を誇り、またフランスでもサンクルー大賞典(芝2500m)を勝ったほか、凱旋門賞ではパールキャップ Pearl Cap の3着と健闘した。ベルギーで種牡馬入りしたあとフランスに移ったが、第二次世界大戦中の1944年、ナチスの爆撃で死亡した。産駒数は多くないが、その血は世界の生産界に多大な影響を与えた。13.15というスタミナ・インデックスは筋金入りのステイヤー種牡馬であることを示している。

 フランスにおける代表産駒の1頭プリンスビオ Prince Bio(1941年生)は仏2000ギニーの勝ち馬。種牡馬としても大成功し、シカンブル Sicambre などを通じて父系を発展させた。スタミナ・インデックスは10.59。日本には産駒のセダンが輸入され、日本ダービー馬コーネルランサーなどを出して成功した。

 アイルランドで生まれた Princequillo(1940年生)は、アメリカへ渡って競走馬となり、ジョッキー・クラブ・ゴールドC(ダート16f)に優勝した。種牡馬としても期待をはるかに上回る成功を収め、父、母の父の双方でチャンピオンに輝いている。スタミナ・インデックスは10.29。代表産駒のラウンドテーブル Round Table はアメリカの大レースを勝ちまくり、年度代表馬となった。

 そのほかのめぼしい種牡馬を拾ってみよう。Bois Roussel の父ヴァトー Vatout(1926年生)は11.36。Herbager の父ヴァンダル Vandale(1943年生)は11.88。フランスで3回リーディング・サイアーとなったワイルドリスク Wild Risk(1940年生)は13.67。ドイツの名種牡馬ネカル Neckar(1948年生)は14.14。凱旋門賞とアスコット・ゴールドC(芝20f)を制したマシーン Massine(1920年生)は12.98。その息子でシンボリルドルフの3代母の父にあたるマラヴェディス Maravedis(1931年生)は15.55。このあたりはウルトラ・ステイヤーだ。


種牡馬名(産駒の総勝利数/父) SI
Eight Thirty(10/Pilate)
6.00
Durbar(14/Rabelais)
6.64
Sickle(11/Phalaris)
8.36
Mahmoud(38/Blenheim)
8.42
Bahram(42/Blandford)
8.69
Asterus(24/Teddy)
8.70
Sir Gallahad(32/Teddy)
9.06
Clarion(32/Djebel)
9.19
Blenheim(33/Blandford)
10.21
Princequllo(7/Prince Rose)
10.29
Norseman(39/Umidwar)
10.35
Sardanapale(23/Prestige)
10.52
Prince Bio(39/Prince Rose)
10.59
Ksar(14/Bruleur)
10.79
Teddy(45/Ajax)
11.07
Victrix(15/Kantar)
11.20
Ardan(25/Pharis)
11.36
Vatout(44/Prince Chimay)
11.36
Vieux Manoir(24/Brantome)
11.40
Pharis(44/Pharos)
11.59
Fastnet(37/Pharos)
11.61
Brantome(12/Blandford)
11.67
Goya(27/Tourbillon)
11.78
Vandale(21/Plassy)
11.88
Cranach(17/Coronach)
12.03
Tourbillon(34/Ksar)
12.10
Jock(24/Asterus)
12.33
Bruleur(40/Chouberski)
12.63
Massine(25/Consols)
12.98
Prince Rose(39/Rose Prince)
13.15
Verso(36/Pinceau)
13.39
Wild Risk(9/Rialto)
13.67
Neckar(7/Ticino)
14.14
Maravedis(10/Massine)
15.55
SI=スタミナ・インデックス