ここからは8ハロン以上10ハロン未満の中距離種牡馬を紹介していきたい。
8.01の Phalaris(1913年生)は、現代の主流父系の祖ともいえる存在である。ノーザンダンサー Northern Dancer やネイティヴダンサー Native Dancer をはじめ、現在世界で成功している種牡馬の大半が、その父系をたどると Phalaris に行き着く。父ポリメラス Polymelus(1902年生)は計5回リーディング・サイアーに輝いた名種牡馬で、英ダービー馬を3頭送り出したが、どちらかといえばスタミナよりもスピード面の能力を伝えた。スタミナ・インデックスも8.68と小さい。息子の Phalaris は、スプリングフィールド Springfield 2×3のインブリードを持つ母の影響によって、マイル以下の短距離で活躍した。Springfield はジュライC(芝6f)を2連覇した快速馬である。
「8ハロン以上10ハロン未満」の一覧表に登場する Phalaris 産駒は、カーリアン Caerleon(1927年生)、コロラド Colorado(1923年生)、マナ Manna(1922年生)、フェアウェイ Fairway(1925年生)、ファロス Pharos(1920年生)の5頭。このうち、Manna を除く4頭が、チョーサー Chaucer を父に持つ牝馬から生まれている。表には含まれていないが、Native Dancer の4代父シックル Sickle、バックパサー Buckpasser の3代父ファラモンド Pharamond も、“Phalaris×Chaucer”の組み合わせで生まれている。
Phalaris の後継種牡馬のなかで最も優れた成績を収めたのは Pharos(1920年生)と Fairway(1925年生)の全兄弟。兄のPharos は現役時代、チャンピオンS(芝10f)に優勝し、英ダービー(芝12f)でも2着となったが、大レースを勝ちまくった弟の Fairway に比べると、能力的な見劣りは否めなかった。種牡馬としては2頭とも成功し、いずれもリーディング・サイアーに輝いている。スタミナ・インデックスの数値も、Pharos が9.00、Fairway が8.96と接近している。
この2つのうちサイアー・ラインとして大きく発展したのは Pharos の系統である。代表産駒ネアルコ Nearco(1935年生)はイタリアのフェデリコ・テシオが生産し、生涯に14戦して一度も負けなかった。種牡馬としても期待に応え、二度リーディング・サイアーとなっている。スタミナ・インデックスは9.78。
後継種牡馬の Nasrullah(1940年生)は、母系から受け継いだスピードによって、ややスタミナに傾きかけたこの系統を再びスピード路線に引き戻した。父 Nearco は9.78で、Nasrullah は8.84である。同じ Nearco 産駒で4分の3同血にあたる Royal Charger に比べると距離的な融通性があり、底力に秀でていた。Nasrullah は、19世紀のプリアム Priam 以来113年ぶりにイギリスとアメリカの双方でリーディング・サイアーとなった。そのサイアー・ラインはやがて世界中に広まっていった。
Fairway 系は主にフェアトライアル Fair Trial を通じて勢力を伸ばしたが、この一覧表にはソロナウェー(1946年生)とハロウェー(1940年生)の2頭が入っている。前者は日本に渡ってから、キーストン(日本ダービー)、テイトオー(日本ダービー)、ベロナ(オークス)、ヤマピット(オークス)、ハツユキ(桜花賞)といった優駿を送り出し、1966年にヒンドスタンを抑えてリーディング・サイアーとなった。後者はタニノハローモア(日本ダービー)、スターロッチ(有馬記念、オークス)、アイテイオー(オークス)の父である。この2頭は日本の血統に大きな影響を及ぼした。ハロウェーにはダンテ Dante(1942年生)という半弟がいるが、この2頭は9.66と9.67で、ほとんど数値が同じである。
日本に関係のある血といえば、8.50のザフィーニクス The Phoenix(1940年生)と8.63のダイオフォン Diophon(1921年生)を忘れるわけにはいかない。
前者は3年連続リーディング・サイアーに輝いたライジングフレームの父である。ライジングフレーム産駒は2000m以下で本領を発揮したが、この素軽いスピードは父 The Phoenix から受け継いだものである。一方、後者は戦前を代表する大種牡馬ダイオライトの父。ダイオライトは三冠馬セントライトをはじめ数えきれないほどの一流馬を送り出した。スプリンターを送り出すことで有名なオービー Orby 系に属しているが、父 Diophonはステイヤー血統で固められた母系の影響で距離をこなす産駒を送り出した。ダイオライトはその延長線上にあり、長距離を苦にしなかった。
この一覧表には載っていないが、フランスの黄金時代を築き上げたトゥールビヨン Tourbillon とジェベルDjebel の親子は、典型的なステイヤー種牡馬である。しかし、Djebel の息子マイバブー My Babu(1945年生)は、Lady Josephine の影響を受けたバドラディン Badruddin を母の父に持つため、競走馬としても種牡馬としてもスピードを強く表現した。スタミナ・インデックスは8.68で、これは父、2代父とはまったく別タイプの馬であることを示している。My Babu の父系はパーソロンを通じて日本で発展した。シンボリルドルフやメジロマックイーンはこの系統に属している。
このように、たった1代を経ただけで、系統の特色が大きく変化することがある。オーウェンテューダー Owen Tudor とテューダーミンストレル Tudor Minstrel(1944年生)の関係もそうだ。父 Owen Tudor は十分なスタミナを備えていたが、息子の Tudor Minstrel は Lady Josephine に連なる牝系に属していたため、My Babu と同じくスピードタイプに出た。スタミナ・インデックスは父より1.5以上小さい8.69である。
このパターンはまだある。フランス産のロアエロドRoi Herode(1904年生)は、驚異的なスピードを誇った The Tetrarch の父として名を残しているが、自身のスタミナ・インデックスは9.54で、それほど速いわけではない。The Tetrarch の快速は父譲りでも母譲りでもなく、5代以内に偏執的にほどこされた多重クロスに由来する。
プリンスキロ Princequillo の母の父、リボー Ribot の2代母の父に顔を出し、渋くいい味を出しているパパイラス Papyrus(1920年生)は9.07。父トレイサリー Tracery(1909年生)が9.64だから、それよりもやや速い。Tracery の系統はこのあたりの距離に集中しており、ニアークティック Nearctic の2代母の父アボッツトレイス Abbots Trace(1917年生)は8.43、セントライトやトサミドリの母の父フランボワイヤン Flamboyant(1918年生)は9.40、その息子のフラミンゴ Flamingo(1925年生)は8.32である。
マッチェム Matchem 系のマルコ Marco(1892年生)を経た流れも、ほぼこのカテゴリーに収まっている。Marco は9.66、息子のマルコヴィル Marcovil (1903年生)は9.25、その息子のハリーオン Hurry On(1913年生)は9.80、その息子のコロナック Coronach(1923年生)は9.42、その息子で Nearco の半弟にあたるニッコロデラルカ Niccolo Dell'Arca(1938年生)は9.93。ただ、Hurry On からプレシピテイション Precipitation に分岐したラインは本格的なステイヤー系である。
Chaucer(1900年生)とスウィンフォード Swynford(1907年生)は、母が同じで父が異なる半兄弟の関係にあるが、産駒の距離適性は似ており、前者は9.36、後者は9.45である。Swynford の後継種牡馬ブランドフォード Blandford(1919年生)は9.70、その息子ユミドウォー Umidwar(1931年生)は9.83。ごく標準的な中距離タイプである。
| 種牡馬名(産駒の総勝利数/父) |
SI |
|
|
| Phalaris(273/Polymelus) |
8.01
|
| Caerleon(135/Phalaris) |
8.10
|
| Flamingo(71/Flamboyant) |
8.32
|
| Windsor Slipper(111/Windsor Lad) |
8.36
|
| Beresford(205/Friar Marcus) |
8.39
|
| Simon Square(165/St.Simon) |
8.39
|
| Abbots Trace(220/Tracery) |
8.43
|
| Bachelor's Double(326/Tredennis) |
8.44
|
| Tredennis(364/Kendal) |
8.49
|
| The Phoenix(288/Chateau Bouscaut) |
8.50
|
| Sunstar(327/Sundridge) |
8.52
|
| Colombo(178/Manna) |
8.56
|
| Stardust(270/Hyperion) |
8.59
|
| ソロナウェー(190/Solferino) |
8.60
|
| Captivation(138/Cyllene) |
8.61
|
| Colorado(94/Phalaris) |
8.63
|
| Diophon(75/Grand Parade) |
8.63
|
| Polymelus(277/Cyllene) |
8.68
|
| His Highness(228/Hyperion) |
8.68
|
| My Babu(166/Djebel) |
8.68
|
| Tudor Minstrel(193/Owen Tudor) |
8.69
|
| Manna(163/Phalaris) |
8.71
|
| Baytown(62/Achtoi) |
8.79
|
| Nasrullah(200/Nearco) |
8.84
|
| White Eagle(147/Gallinule) |
8.87
|
| Nakamuro(61/Cameronian) |
8.89
|
| Mr.Jinks(110/Tetratema) |
8.95
|
| Fairway(321/Phalaris) |
8.96
|
| Louvois(67/Isinglass) |
8.97
|
| Pharos(150/Phalaris) |
9.00
|
| William the Third(136/St.Simon) |
9.01
|
| Papyrus(210/Tracery) |
9.07
|
| Signal Light(314/Pharos) |
9.10
|
| Soldennis(167/Tredennis) |
9.21
|
| Combat(208/Big Game) |
9.25
|
| Marcovil(106/Marco) |
9.25
|
| Pommern(268/Polymelus) |
9.30
|
| Bayardo(88/Bay Ronald) |
9.35
|
| Chaucer(241/St.Simon) |
9.36
|
| Flamboyant(76/Tracery) |
9.40
|
| Coronach(139/Hurry On) |
9.42
|
| Swynford(275/John o'Gaunt) |
9.45
|
| Roi Herode(185/Le Samaritain) |
9.54
|
| Coup de Lyon(249/Winalot) |
9.56
|
| Nearula(90/Nasrullah) |
9.56
|
| Orthodox(187/Hyperion) |
9.57
|
| Dastur(141/Solario) |
9.63
|
| Tracery(213/Rock Sand) |
9.64
|
| Marco(101/Barcaldine) |
9.66
|
| ハロウェー(61/Fairway) |
9.66
|
| Dante(245/Nearco) |
9.67
|
| Blandford(204/Swynford) |
9.70
|
| Nearco(452/Pharos) |
9.78
|
| Hurry On(263/Marcovil) |
9.80
|
| Umidwar(238/Blandford) |
9.83
|
| Bridge of Earn(202/Cyllene) |
9.84
|
| Galloper Light(178/Sunstar) |
9.87
|
| Sansovino(151/Swynford) |
9.87
|
| Felstead(161/Spion Kop) |
9.90
|
| Milton(89/Marcovil) |
9.91
|
| Niccolo Dell'Arca(130/Coronach) |
9.93
|
| Wilwyn(92/Pink Flower) |
9.93
|
| Lemberg(209/Cyllene) |
9.95
|
|
|
| SI=スタミナ・インデックス |
|
|