レディジョセフィン Lady Josephine を起点とするファミリーは、現代競馬に“スピード革命”をもたらした。

 19世紀の競馬は長距離レースが主流で、頑健なステイヤーがもてはやされていたが、最近は1600〜2000mのレースが重要視され、この距離で勝てるスピード、瞬発力が要求されている。
 長距離レースが廃れていったのは、Lady Josephine の血がサラブレッド全体に浸透し、スピード化が進行していったことも理由のひとつである。
 牝系図を見ていただきたい。ここに掲げたのは Lady Josephine のファミリーから出た初期の活躍馬である。「サイアー・ライン」の項でスピード、瞬発力に長けた種牡馬と説明した Nasrullah は、このファミリーに属している。Nasrullah のほかにも、ロイヤルチャージャー Royal Charger、フェアトライアル Fair Trial、Tudor Minstrel など速い馬が多い。これらは種牡馬として大成功し、Lady Josephine の血は全世界のサラブレッドに広まっていった。
 日本で「華麗なる一族」といわれるマイリー系は、Lady Josephine の直牝系ではないが、このファミリーの影響を強く受けている。
 牝祖マイリーから2代連続して Nasrullah 系種牡馬が交配され、誕生したのが孫のミスマルミチ。同馬は Nasrullah 3×3の強いインブリードを持っている。さらにその娘イットーは、Nasrullah の2代母マムタズマハル Mumtaz Mahal 5×6・6という配合である(Nasrullah の2代母が Mumtaz Mahal)。

 ハギノトップレディやハギノカムイオーを見てわかるように、「華麗なる一族」のセールスポイントはいうまでもなくスピード。その優越性の源泉は Lady Josephine ファミリーの血にある。

Lady Josephine(f.1912.Sundridge)……コヴェントリーS
  Lady Juror(f.1919.Son-in-Law)……ジョッキー・クラブS
  │Fair Trial(c.1932.Fairway)……ルース・メモリアルS
  │Sansonnet(f.1933.Sansovino)
  │ Tudor Minstrel(c.1944.Owen Tudor)……英2000ギニー、他
  Mumtaz Mahal(f.1921.The Tetrarch)……クイーン・メアリーS、他
   Mah Mahal(f.1928.Gainsborough)
   │Mahmoud(c.1933.Blenheim)……英ダービー、シャンペンS、他
   │Pherozshah(c.1934.Pharos)……ヴェンチアの母の父
   │Mah Iran(f.1939.Bahram)
   │ Migoli(c.1944.Bois Roussel)……凱旋門賞、エクリプスS、他
   Badruddin(c.1931.Blandford)……My Babu の母の父
   Mumtaz Begum(f.1932.Blenheim)
   │Sun Princess(f.1937.Solario)
   ││Royal Charger(c.1942.Nearco)……名種牡馬
   │Nasrullah(c.1940.Nearco)……チャンピオンS、コヴェントリーS
   Rustom Mahal(f.1934.Rustom Pasha)
    Abernant(c.1946.Owen Tudor)……ジュライC〔2回〕、他

マイリー(f.1953.Supreme Court)〔英国産〕
 キューピット(f.1957.Nearula)……阪神牝馬特別
  ヤマピット(f.1964.ソロナウェー)……オークス、大阪杯、他
  ミスマルミチ(f.1965.ネヴァービート)《←Nasrullah 3×3》
   イットー(f.1971.ヴェンチア)……高松宮杯、スワンS
   │ハギノトップレディ(f.1977.サンシー)……桜花賞、エリザベス女王杯、他
   ││ダイイチルビー(f.1987.トウショウボーイ)……安田記念、他
   │ハギノカムイオー(c.1979.テスコボーイ)……宝塚記念、高松宮杯、他
   ニッポーキング(c.1973.プロント)……セントライト記念、安田記念、他
   シルクテンザンオー(c.1979.ファーストドーン)……シンザン記念