シーホークは晩年になって、2年連続で日本ダービー馬を送り出した。1989年のウィナーズサークルと、1990年のアイネスフウジン。しかしこの2頭は、同じ種牡馬の子とは思えないほど競走馬としての資質が異なっていた。
 フランス伝統のスタミナ血脈を受け継いだシーホークは、ステイヤー型の種牡馬として成功し、春の天皇賞を勝ったモンテプリンス、モンテファストの全兄弟をはじめ、スタミナ豊かな産駒を送り出した。ただ、どんな種牡馬であっても、交配牝馬の個性によって産駒のタイプが左右されるのは当然である。
 1989年の勝ち馬ウィナーズサークルは、スタミナとパワーには優れていたものの、決め手が甘く、やや素軽さに欠けるところがあった。こうした特長は、程度の差はあれシーホークの子には珍しくないものだが、グレートオンワード×Mossborough という母の重さ、力馬的側面も少なからず影響したに違いない。

 一方、1990年のアイネスフウジンの場合、2歳時からスピード馬として鳴らし、朝日杯3歳S(現・朝日杯フューチュリティS=G1・芝1600m)を1分34秒4(タイレコード)で圧勝、ダービーも先手を取って2分25秒3(レースレコード)で一気に逃げ切るという圧倒的なスピードを披露した。
 もちろん、スタミナのない馬が府中の2400mを逃げ切れるわけがないので、父シーホークの影響は当然大きかったわけだが、このずば抜けたスピードは母方から受け継いだのではないかと考えられる。母テスコパールは「テスコボーイ×モンタヴァル」という配合。テスコボーイだけでも速いが、モンタヴァルとのコンビネーションで底力が加わり、Nasrullah 3×4のインブリードが生じるため、さらにスピードが増した。ちなみに「テスコボーイ×モンタヴァル」という組み合わせは、桜花賞を大差、オークスを8馬身差で圧勝したテスコガビーと同じである。

 現代は、スピードのないサラブレッドは生き残れない時代なので、スタミナ血脈を前面に出した配合は、どうしても苦戦しがちである。アメリカは以前からその傾向が見られたが、最近はヨーロッパもそうなりつつある。
 たとえば、6月にアスコット競馬場で行われるゴールドC(英G1・芝20f)は、昔は古馬最大のレースとして多くの一流馬が参戦していたが、いまは見る影もなく衰退し、仮に勝ち馬が種牡馬となっても用途は障害向けがメインだろう。イギリス最大のレースであるエプソム・ダービー(英G1・芝12f10yds)にしても、勝ち馬が種牡馬として成功したのは過去の話で、最近はマイル路線で活躍した馬の方が生産者に歓迎されている。
 しかし、スタミナの血が不要かといえば、決してそうではない。リボー Ribot をはじめ、プリンスローズ Prince Rose、ワイルドリスク Wild Risk、Secretariat……といった血脈は、母系に入って素晴らしい働きをする。
 ミエスク Miesque という牝馬を例に挙げてみよう。この馬は、世界最高峰のブリーダーズCマイル(米G1・芝8f)を2連覇し、欧米のG1レースを10勝した近年最高の名マイラーである。
 父 Nureyev はマイラータイプの名種牡馬として知られているが、ここで注目したいのは、母の父プルーヴアウト Prove Out。この馬は、Ribot 系独特の重厚さとスタミナを受け継ぎ、現役時代はジョッキー・クラブ・ゴールドC(米G1・ダート16f)に優勝している。

 Miesque は、パワーを要求されるヨーロッパの深い芝(マイルで1分38秒台)、スピードを要求されるアメリカの堅い馬場(同1分32秒台)のいずれでも強く、とにかく8fなら絶対的な強さを見せた。この底力は、おそらく Prove Out から受け継いだものと思われる。
 スピード馬同士の父と母を掛け合わせても、生まれてくるのは底力に欠けるスピード馬が多い。速いことは速いが、どことなく線が細く、強い相手と当たるとまったく歯が立たない、というタイプ。
 しかし、血統表のどこか(たとえば母の父など)に重厚な血を持っていれば、ほかの部分が軽いスピード血脈でも、だいぶ違ってくる。
 大レースでも勝負になるような、強さと底力をともなったスピード馬というのは、Miesque と同じようなパターンから生まれてくることが多い。近年の日本を代表する名マイラー・ニホンピロウイナーも、父はスティールハート(その父 Habitat)と軽いものの、母の父にチャイナロックという重い血が入っている。

 Ribot に関してつけ加えれば、この血は少々重すぎるところがあり(しかも影響力が強い)、クロスさせる血脈としては成功していない。もちろん、なかには大レースを勝った馬もいるが、失敗例の方がはるかに多い。