アメリカの『ブラッドホース』誌ではこのところ、Holy Bull が勝つたびにその勇姿を表紙に飾っている。そこには大きな見出し文句も添えられる。7月31日のハスケル招待H(米G1・ダート9f)を勝ったときには“BULL'S HOME RUN!"、8月20日のトラヴァーズS(米G1・ダート10f)は“BULL POWER!"、そして9月17日のウッドワードS(米G1・ダート9f)を圧勝した際には“SUPERBULL”と、一戦ごとにトーンが上がり、まさに手放しで誉め称えている。その表現のなかには、この名馬への深い驚きと愛情とを読み取ることができる。スタートから先頭に立ち、スピードとパワーで後続をねじ伏せるアメリカ人好みの馬で、聞くところによるとファンも多いらしい。
 Holy Bull の血統には、世界的な主流血脈がほとんど含まれていない。ネアルコ Nearco−ナスルーラ Nasrullah はもちろん、ノーザンダンサー Northern Dancer、Raise a Native、Buckpasser、Hail to Reason、プリンスキロ Princequillo、リボー Ribot もない。にもかかわらず、これだけの名馬が出現したということは、アメリカ競馬の底辺の広さと、底力を証明するものだろう。


 母シャロンブウラウン Sharon Brown は通算32戦3勝(2着6回)。その父アルハタブ Al Hattab、母の父グレイドーン Grey Dawn はともにヨーロッパ血脈が濃く、芝の中距離がベストの種牡馬だが、それほど強烈な個性を伝えるタイプではなく、栄養は豊富だが味も歯ごたえもない、ちょうど豆腐のような種牡馬だ。Mahmoud クロスは底力とクラシック向きのスピードを強化し、容易にバテない粘り強さ、末脚の持続力を与える。
 この母に、鋭いスプリントを持つ父を配して生まれたのが Holy Bull である。もっと単純に、ヨーロッパ血脈の母にアメリカ血脈の父を交配した、と考えても良いかもしれない。いずれにしろ、Northern Dancer やシーバード Sea Bird を彷彿させる異系交配が、父と母の長所をそれぞれ最大限に引き出したわけである。
 Holy Bull の血統を調べていて気がついたのだが、これと非常に良く似た組成を持つ名馬がほかにいる。1988年のジョッキー・クラブ・ゴールドC(米G1・ダート12f)を15馬身差で圧勝するなど、3つのG1を含めグレード・レースを6勝したウォクォイト Waquoit である。
 すでに述べたように、In Reality は、“Rough'n Tumble と Intentionally”のニックスを持っているという点で Great Above と似ている。その In Reality の優れた後継種牡馬である Relaunch は、母の父に“ジアクス The Axe”を持っている。そして、Relaunch の代表産駒である Waquoit は、“Grey Dawn”の娘から生まれているのである。つまり Holy Bull と Waquoit は、Rough'n Tumble、Intentionally、The Axe、Grey Dawn という4つの血脈が共通しているのだ。偶然とは思えない符合ぶりである。


 Holy Bull は来年も現役を続行する。アメリカ競馬の歴史を背負ったこの芦毛の名馬が、さらにいくつもの名勝負をわれわれに見せてくれることを期待しつつ、筆を擱くことにしよう。(了)


Darley Arabian(1700)
 Bartlet's Childers(1716)
  Squirt(1732)
   Marske(1750)
    Eclipse(1764)
     Pot8o's(1773)
      Waxy(1790)
       Whalebone(1807)
        Camel(1822)
         Touchstone(1831)
          Orlando(1841)
           Eclipse(1855)…〔アメリカヘ輸出〕
            Alarm(1869)
             Himyar(1875)…下図へ続く

Himyar(1875)
 Domino(1891)…フューチュリティS、ウィザーズS、他
 │Cap and Bells(f.1898)…英オークス
 │Commando(1898)…ベルモントS
 │ Peter Pan(1904)…ベルモントS、ホープフルS、他
 │ │Black Toney(1911)
 │ ││Black Servant(1918)
 │ │││Blue Larkspur(1928)…ベルモントS、ウィザーズS
 │ │││ Blue Swords(1940)…Hail to Reason の母の父
 │ │││  Blue Man(1949)…プリークネスS、フラミンゴS、他
 │ ││Black Gold(1921)…ケンタッキー・ダービー
 │ ││Broker's Tip(1930)…ケンタッキー・ダービー
 │ │││Market Wise(1938)…ジョッキー・クラブGCS、サバーバンH、他
 │ │││ To Market(1948)…アーリントン・ワシントン・フューチュリティ、他
 │ ││Balladier(1932)…米シャンペンS
 │ │││Spy Song(1943)…アーリントン・ワシントン・フューチュリティ
 │ ││││Crimson Satan(1959)…ガーデン・ステートS、他
 │ ││││ ドラマティックビッド(1978)…本邦輸入種牡馬
 │ │││Double Jay(1944)…ケンタッキー・ジョッキー・クラブS
 │ ││││Bagdad(1956)…ハリウッド・ダービー
 │ ││││ ムーンマウンテン(1968)…本邦輸入種牡馬
 │ │││ブラックウヰング(1946)…本邦輸入種牡馬
 │ ││Bimelech(1937)…ベルモントS、プリークネスS、サラトガ・スペシャル、他
 │ ││ Better Self(1945)…サラトガ・スペシャル
 │ │Pennant(1911)…フューチュリティS
 │ │ Equipoise(1928)…サバーバンH、ディキシーH、ホーソーンGCH、他
 │ │ │Swing and Sway(1938)
 │ │ ││Saggy(1945)
 │ │ ││ Carry Back(1958)…ケンタッキー・ダービー、プリークネスS、他
 │ │ │Shut Out(1939)…ケンタッキー・ダービー、ベルモントS、他
 │ │ Dauber(1935)…プリークネスS
 │ Colin(1905)…ベルモントS、サラトガ・スペシャル、他
 │ │Neddie(1926)
 │ │ Good Goods(1931)
 │ │  Alsab(1939)…プリークネスS、アメリカン・ダービー、ウィザーズS、他
 │ │   Armageddon(1949)…シャンペンS、ウィザーズS
 │ │    Battle Joined(1959)…サラトガ・スペシャル、他
 │ │     Ack Ack(1966)…サンタアニタH、ハリウッドGCH、他
 │ │      Youth(1973)…仏ダービー(G1)、ワシントンD.C.国際(G1)、他
 │ │      │Teenoso(1980)…英ダービー(G1)、KJ6世&QES(G1)、他
 │ │      パンザー(1976)…本邦輸入種牡馬
 │ │      Broad Brush(1983)…サンタアニタH(G1)、サバーバンH(G1)、他
 │ │       Concern(1991)…アーカンソー・ダービー(G2)、他
 │ Ultimus(1906)
 │  Luke McLuke(1911)…ベルモントS
 │  │Nellie Morse(f.1921)…プリークネスS、ピムリコ・オークス
 │  High Time(1916)…米リーディング・サイアー
 │  Stimulus(1922)…ピムリコ・フューチュリティ
 Plaudit(1895)…ケンタッキー・ダービー、米シャンペインS
  King James(1905)…ブルックリンH
   Spur(1913)…トラヴァーズS、ウィザーズS
    Sting(1921)…サバーバンH
     Questionnaire(1927)…ブルックリンH
      Free for All(1942)…アーリントン・ワシントン・フューチュリティ
       Rough'n Tumble(1948)…サンタアニタ・ダービー
       │Dr.Fager(1964)…サバーバンH、アーリントン・クラシック、他
       │Minnesota Mac(1964)
       │ Great Above(1972)
       │  Holy Bull(1991)…トラヴァーズS(G1)、メトロポリタンH(G1)、他
       テツノチカラ(1950)…京都4歳S