競走馬として15戦全勝の成績を残した Colin は、アメリカ史上もっともレース・キャリアを重ねた不敗馬として知られている。小レースを選んで連勝記録を伸ばしたわけではなく、勝ち鞍にはベルモントS、フューチュリティSなど、同世代のトップクラスが集まる大レースがいくつも含まれていた。


Colin

 受胎率が低かったため、生涯に得た産駒はたった81頭。そのうちの11頭がステークス・ウィナーとなっているように、決して出来の悪い種牡馬ではなかったが、これといった大物は出せなかった。Peter Pan や Ultimus よりも劣っていたことは否めない。
 しかし、Peter Pan 系や Ultimus 系が滅びてしまったいま、この系統は依然として存続している。この事実は、「運」や「偶然」という言葉でしか説明できない。

 Colin の息子ネディ Neddie は、競走馬としても種牡馬としてもごく平凡な存在でしかなかった。生産界に与えた影響は皆無に等しく、無名種牡馬の域を出ていない。
 その息子グッドグッズ Good Goods にしても同じようなものだ。しかし、この馬がほかの無名種牡馬と違う点は、凡庸な産駒群のなかにたった1頭、アルサブ Alsabという逸材を送り出したことである。
「鳶が鷹を生む」のたとえどおり、Alsab は父とは似ても似つかない優秀な競走能力を示し、プリークネスS、アメリカン・ダービー、ウィザーズS、シャンペンSなどの大レースに優勝した。3歳秋には前年の三冠馬ワーラウェイ Whirlaway とマッチ・レースを行い、ハナ差でこれをくだしている。この一戦は、アメリカ史上もっともスリリングなマッチ・レースとして語り継がれるほどの名勝負だった。年度代表馬に選ばれた経験はないものの、2、3歳時に年齢別のチャンピオンに輝いている。
 活力に乏しい内国産種牡馬でも、ごくたまに活躍馬を送り出しすことがあるが、そうした産駒は、5代多重クロスや強いインブリードを持っているケースが多い。数少ない良血を積極的に強化することで活力不足を補うためである。Alsab は、4分の3兄妹の Colin帥買@ーデュア Verdure 3×3を中心に、フェアプレイ Fair Play、St.Simon、ベンドア Bend Or などをクロスさせている。

 Alsab の種牡馬成績は、父 Good Goods、2代父 Neddie を上回ったが、決して成功を収めたわけではない。シャンペンS、ウィザーズSを制したアーマゲドン Armageddon、メイトロンSを勝った牝馬マートルチャーム Myrtle Charm が代表産駒。後者はのちに1977年の米三冠馬 Seattle Slew の3代母になった。
 父の跡を継いだ Armageddon は、どこといって取り柄のない凡庸な種牡馬だった。能力は父よりも劣り、サラトガ・スペシャル、ローレンス・リアライゼーションSを勝ったバトルジョインド Battle Joined が辛うじて後継種牡馬となる。
 Colin 以降、この系統は干上がる寸前の小川のような状態だったが、Battle Joined の息子アクアク Ack Ack の出現によって勢いを取り戻す。Battle Joined は、Ack Ack の父としてのみ名を遺す平凡な種牡馬である。
 アメリカ西海岸の競馬史を彩る名馬の1頭として、Ack Ack の名を欠かすことはできない。1971年の米年度代表馬に選ばれた同馬は、サンタアニタH(ダート10f)、ハリウッド・ゴールド・カップH(ダート10f)、アーリントン・クラシック(ダート8f)など通算27戦19勝。逃げてよし差してよし、スピードは超一流、重いハンデにも耐え、芝も克服するというスーパーホースだった。Ack Ack の2代母チェロキーローズ Cherokee Rose はCCAオークスの勝ち馬で、トムロルフ Tom Rolfe の2代母ハウ How、シャム Sham の母セコイア Sequoia の全姉妹でもある。

 Ack Ack は種牡馬としても成功し、産駒はアメリカだけでなく海外でも活躍する。なかでもユース Youth は、リュパン賞(仏G1・芝2100m)、フランス・ダービー(G1・芝2400m)、さらにアメリカに渡ってワシントンD.C.インターナショナル(G1・芝12f)を制し、仏3歳チャンピオン、米芝チャンピオンに選出された。この系統の競走馬がヨーロッパのクラシック・レースを制したのは実に75年ぶりのことである。通算11戦8勝、1970年代のフランス調教馬としては屈指の名馬といって間違いない。その母ガザラ Gazala は仏1000ギニー、仏オークスを連覇した名牝。Youth のほかに仏2歳チャンピオンのミシシッピアン、愛セントレジャー(G1・芝14f)のゴンザレス Gonzales を送り出している。
 種牡馬としての Youth は、長距離タイプということもあって滑り出しは芳しくなかったが、ようやく3年目に Teenoso という大物を送り出す。
 Teenoso は、レスター・ピゴットとのコンビでエプソム・ダービー(英G1・芝12f)を勝ち、翌年のキング・ジョージ6世&クイーン・エリザベスS(英G1・芝12f)ではサドラーズウェルズ Sadler's Wells の追撃を凌いで逃げ切った。この年、全欧古馬チャンピオンに選ばれている。ダービーは馬場が渋っていたため勝ち時計は2分49秒70と極端に遅かったが、決して道悪専用馬ではなく、良馬場のキング・ジョージでは2分27秒95という極めて優秀なタイムで優勝している。

 日本ではミラーズドウターの父として知られている Teenoso だが、イギリス本国での種牡馬成績は今ひとつだった。フェデリコ・テシオの昔と違い、第一義にスピードが求められるこの現代においては、エプソム・ダービーの勝ち馬が種牡馬として成功するケースは少なくなっている。Teenoso も例外ではなく、現在は障害専用の種牡馬として供用されている。
 Youth−Teenoso と、2代続けて偉大な競走馬が出現したものの、結局、この流れは行き詰まった。しかし、Ack Ack のラインは、現在では別の方向から発展し、しぶとく生き残っている。
 Ack Ack の仔ブロードブラッシュ Broad Brush は、サンタアニタH(米G1・ダート10f)、サバーバンH(米G1・ダート10f)など4つのG1を制した。ヨーロッパ・デビューの Youth とは異なり、アメリカで走った“保守本流”の代表産駒である。
 Broad Brush は種牡馬としても成功し、コンスタントに良駒を送り出している。今年(1994年)は、アーカンソー・ダービー(米G2・ダート9f)を勝ちトラヴァーズS(米G1・ダート10f)でも2着に入った Concern の働きで、堂々と種牡馬ランキングのベスト10をキープしている(注:Concern は同年11月のブリーダーズCクラシックを制覇し、父 Broad Brush は米リーディング・サイアーに輝いた)。

Commando(1898)…ベルモントS
 Colin(1905)…ベルモントS、サラトガ・スペシャル、他
  Neddie(1926)
   Good Goods(1931)
    Alsab(1939)…プリークネスS、アメリカン・ダービー、ウィザーズS、他
     Armageddon(1949)…シャンペンS、ウィザーズS
      Battle Joined(1959)…サラトガ・スペシャル、他
       Ack Ack(1966)…サンタアニタH、ハリウッドGCH、他
        Youth(1973)…仏ダービー(G1)、ワシントンD.C.国際(G1)、他
        │Teenoso(1980)…英ダービー(G1)、KJ6世&QES(G1)、他
        パンザー(1976)…本邦輸入種牡馬
        Broad Brush(1983)…サンタアニタH(G1)、サバーバンH(G1)、他
         Concern(1991)…アーカンソー・ダービー(G2)、他