Commando のサイアー・ラインを発展させたのは、Peter Pan、アルティマス Ultimus、Colin の3系統。このうち、もっとも勢力を伸ばした Peter Pan のラインは、今世紀前半のアメリカ生産界において主流の一角を占めていた。
 Peter Pan の直系子孫には数多くの名種牡馬が誕生したが、なかでもブラックトニー Black Toney、ブルーラークスパー Blue Larkspur、ペナント Pennant、エクワポイズ Equipoise、ダブルジェイ Double Jay の5頭は、自身の全産駒数に対するステークス・ウィナーの割合が10%を超えており、影響力も強い。それぞれ持ち味はあるが、もっとも優れた種牡馬として世評が一致するのは Blue Larkspur である。


 同馬はリーディング・サイアーになった経験がなく、種牡馬ランキングでは5位になったのが最高の成績だが、おもに娘たちを通じて後世に絶大な影響を与えた。Nijinsky、Buckpasser、ヘイルトゥリーズン Hail to Reason、ミスタープロスペクター Mr.Prospector、Damascus、ロベルト Roberto、シアトルスルー Seattle Slew といった世界的な種牡馬は、5代以内に Blue Larkspur を単独かクロスの形で持っている。日本のトウショウボーイやマルゼンスキーを含めてもいいだろう。


 セントサイモン St.Simon の誕生から約半世紀後に生まれながら、Blue Larkspur はこの血を含んでいない。St.Simon の血が充満する当時の状況にあってこれは大きなアドバンテージといえる。サイアー・ラインを伸ばす力は弱く、わずかな期間で滅びてしまったが、母系に入って真価を発揮し、速さと底力、それに丈夫さを伝えた。
 Ultimus は一度もレースに出走しなかったが、種牡馬として成功を収め、生涯に残した126頭のうち、21%にあたる26頭がステークス・ウィナーになった。この数字は、2代父 Domino(42%)、父 Commando(40%)には遠く及ばないが、Peter Pan(20%)、Black Toney(18%)、Pennant(16%)、Blue Larkspur(15%)を凌ぐ極めて優秀なものである。その活力の源は、Domino 2×2という強烈なインブリードにある。


 Ultimus は、メノウ Menow、エイトサーティ Eight Thirty、ローマン Roman、サンアゲイン Sun Again、オリンピア Olympia、Raise a Native といった種牡馬に影響を与えた。Ultimus の子で1928年の米リーディング・サイアーとなったハイタイム High Time は、なんと Domino 3・3×2である。Menow は、Nijinsky の2代母の父、Buckpasser の2代父、Red God の母の父になり、近年、その血脈の評価はますます高まっている。


Commando(1898)…ベルモントS
 Peter Pan(1904)…ベルモントS、ホープフルS、他
 │Black Toney(1911)
 ││Black Servant(1918)
 │││Blue Larkspur(1928)…ベルモントS、ウィザーズS
 │││ Blue Swords(1940)…Hail to Reason の母の父
 ││Balladier(1932)…米シャンペンS
 │││Spy Song(1943)…アーリントン・ワシントン・フューチュリティ
 ││││Crimson Satan(1959)…ガーデン・ステートS、他
 │││Double Jay(1944)…ケンタッキー・ジョッキー・クラブS
 ││Bimelech(1937)…ベルモントS、プリークネスS、サラトガ・スペシャル、他
 ││ Better Self(1945)…サラトガ・スペシャル
 │Pennant(1911)…フューチュリティS
 │ Equipoise(1928)…サバーバンH、ディキシーH、ホーソーンGCH、他
 Ultimus(1906)
  High Time(1916)…米リーディング・サイアー
  Stimulus(1922)…ピムリコ・フューチュリティ